知的活動を支える環境デザイン
北陸先端科学技術大学院大学▲知識科学研究科▼1では、世界に発信できるモデルケースとして「知識創造ビルディングス」の構築が進展している。これは、最先端技術を用いた知識創造のためのインフラストラクチャーを研究科の建物全体に装備し、未来の知的活動空間に関する文理融合型の実験的研究を展開するものである。他では類を見ない充実した環境をベースにした新しい研究が生まれてきている。ここでは知識創造ビルディングスの考え方を説明しよう(*43-1)。
最近、ナレッジマネジメント▲や情報技術の社会への浸透とともに、組織における知的創造空間のデザインに関する関心が高まっている。これは、企業や大学などの知的な活動全体を支える統合的な環境を、物理的、認知的、社会的、情報的諸空問の複合体としてとらえ、未来の知的オフィスのあり方を模索するものである。このために参考となる枠組みとして、組織論からは「知識創造スパイラル」と「場▲」の考え方(*43-2)があり、情報技術論からはドイツの研究者による「コーポレイティブビルディングス」の考え方(*43-3)などがある。後者は、人々の協調作業を支援するグループウェア▲というコンセプトを拡張し、ルームウェアを経てコーポレイティブビルディングスにまで推し進めたものである。
知識科学研究科では、「研究科が目標とするキーワードは何であるか?」、「そのキーワードを実現する仕掛けはどのようなものであるか?」に答える形で、知識創造ビルディングスというコンセプトを体系化し、研究科全体の規模で知的創造空間実現に向けて具体的展開を図ってきた。キーワードである「知識創造スパイラル」「文理(異分野)融合」「複雑な問題に対する問題発見・解決」「産学官連携交流」などのコンセプトを踏まえた研究教育のための多次元空間として設計・実現されている。
教育のための三次元の場
★43-1は、知識科学研究科のグランドデザインを示している。ここでは研究科を次のような3つの研究教育のための三次元の場としてとらえている。
(1) |
文理(異分野)融合の場(X軸):建物を水平に見ると、社会科学系の研究室は左のI棟に、自然科学系は右のII棟に、情報科学系は両者をつなぐものとして、I棟とIII棟の両方に配置され、中問のII棟は文理融合を図るためのコラボレーションスペースとしてデザインされている。 |
(2) |
問題解決の場(Y軸):建物を垂直に見ると、各階は、問題提起、知識収集、仮説生成、モデリング、シミュレーションという問題解決のプロセスに対応し、各ステップに適した専用の電子会議室・実験室が配置され、そのためのシステムが研究開発される。学生は、階上から階下へたどることにより、問題解決の全プロセスを実習を通じて体験できる。 |
(3) |
連携交流の場(Z軸):外部との人的あるいは電子的な連携交流のための機能を最大限実現し、開かれた知識創造▲の場とする。このような連携を通じて知識創造理論の具体的展開場を得ることができる。また情報発信の場にもなり、知識科学という新規分野の社会的認知を高めることにもつなげることができる。地縁・知縁・学(会)縁など縁を結ぶ契機になる。 |
右記の場を用いて知識創造のスパイラルを巻き起こそうというのがこのグランドデザインである。本構想を実現するには、インフラストラクチャーの上にさまざまな技術を研究開発し統合することが必要となる。新しいコンセプトには新しい言葉が必要になる。次のような新造語を用いて新しい機能や仕組みのアイデアを模索し、研究教育の活性化につなげている[★43-2]。
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