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イノベーションのための知識の共有と創造
近年、「知識」が企業のみならず地域や国家の競争力にとって、極めて重要な資源であるという認識が広まってきている▼1。それに伴い、企業経営の分野における新しい理論・手法の総称あるいはパラダイムとして、「ナレッジマネジメント」が普及・定着し始めている。
ナレッジマネジメントは、「知識管理」あるいは「知識経営▲」とも訳され、前者が特にITを活用しながら個人やグループのもつ既存知識の共有・活用を目指すのに対して、後者はそれを超えて、新しい知識の創造を絶えず行うことによって連続的にイノベーションを創出し、組織の競争力を確保しようというものである(*04-1)。
ナレッジマネジメント運動の原動力のひとつになったのが、Nonaka & Takeuchi(1995)の『The
Knowledge-Creating Company』▼2である。世界的に大きな反響を呼んだ本書で提示された組織的知識創造理論の中核をなすのが「SECI(セキ)モデル」であり、その後に発表した「場▲」というコンセプトと合わせて、今のところ唯一のナレッジマネジメント理論となっている。
ナレッジマネジメントの実践については、コンサルティングファームを事例に、Hansen, Nohria, and Tierney(1999)(*04-2)が、「知識が注意深くコード化されてデータベースに蓄積され、社員全員が容易にアクセスして利用できるようにする」コード化戦略(codification
strategy)と、「知識はそれを創り出した人に密着しているので、人と人が直接会うことによって共有」することをめざす個人化戦略(personalization
strategy)の2つの戦略があり、それらの同時追求は企業業績に悪影響を与える、と論じた。
しかし、高性能・高価格の社内用データベースを設置して知識の共有を進めながら、一方で人と人の直接対面を重視するコミュニティズ・オブ・プラクティス(Communi-ties
of Practice : CoPs)の形成を積極的に進めている企業が増えている。彼らの分類に従えば、暗黙知重視の日本企業は個人化戦略を採ってきたということになろうが、最近は積極的にITを活用している。ヨーロッパでもノキアなどが同じような混合戦略を採っている。つまり、2つの戦略のどちらかを選べ、ということではないのである。
ビジネス以外の分野でも、最近ナレッジマネジメントの普及が始まった。ナレッジバンクを標榜している世界銀行では、発展途上国での開発プロジェクトで得られた知識を広く共有するために、ストーリーテリングを使っている。また医療の分野でも、標準的な治療のスケジュールを図表化したクリニカルパスや、実証的・科学的証拠によって有効性が認められた治療手法を使うEvidence-Based
Medicine(EBM)をベースに、ナレッジマネジメントが普及し始めている。
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