会議から救われる?
情報社会の進展は、国内的にも国際的にもコミュニケーションの必要性をますます増大させ、今や有能な多くのビジネスマンは、会議に忙殺されるという事態(*05-1)が派生している。例えば、従業員を部門別にみて、スタッフで就業時間の10・4%、エンジニアで6・8%、クラークで4・5%が会議のために時間を取られている。ところで、マネジャークラスになると、毎日10時間11分も働いたうち、3時間58分が会議であるという状態に陥る。またプレジデントクラスになると、毎日13時間4分も働いて、5時間9分も会議に費やされるという働きバチ症候群が現れる。この傾向は日米ともに同じだが、日本の場合はさらに赤提灯とかゴルフの付き合いがあるので、プライベートな生活を守るのがますます難しくなってくる。このような苦境を救うコミュニケーションのツールとして、グループウェアが注目されている。
グループウェアとは、共同作業をするグループワーク専用に設計されたコンピュータ支援ツールの総称である。従来のコンピュータはあまりに個人の問題解決専用ツールとして発展してきた。グループウェアではグループの単位が小集団、チーム、組織あるいはコミュニティや社会のいずれであれ、それぞれの抱える創造的問題解決のための各種機能を実現する。例えばワークフロー管理、グループ意思決定支援システム、プロジェクト管理ソフト、グループ執筆支援ソフト、テレビ会議、知識共有支援システム、発想支援システム▲、知識創造支援システムなどはグループウェアとみなすことができる。グループウェアの主たる狙いは時間と空間の制約を取り去ることである。
グループウェアの最も標準的な使用法は会議支援システムである。高橋によると(*05-1)、会議には伝達会議、調整会議、決定会議、創造会議の4種類がある。伝達会議は情報の伝達が主たる業務なので、一方向の伝達型の通信チャンネル(非同期・遠隔型のグループウェア)があれば十分であろう。調整会議や決定会議では組織間の調整を図り、組織の行動を決定するための会議なので、双方向伝達型の通信チャンネル(同期・遠隔型のグループウェア)が必要とされるであろう。ところが、創造的問題解決のための会議である創造会議では、徹底的な議論が行われ、かつ生産的な提言をまとめることが期待されるので、極めて知的なアドバイス(あるいはコーディネート)機能をもつ同期・同室型グループウェアの提供が望まれる。
グループウェアの研究開発は(*05-2)非同期・遠隔型グループウェアの一種である電子メールからスタートし、同期・同室型グループウェアであるデシジョンルーム▼1の研究開発を経て、今やマルチメディア・ネットワークを駆使した同期・遠隔型グループウェアである在席型会議システムの研究開発が盛んである。非同期・同室型グループウェアとしても、各種の偶然の出会い(知的触発)を支援するツールの研究も行われるようになってきた。
実用的なグループウェアとしては電子メール以外に各種の事務処理ツールと結合したものが生まれるようになってきた。恐らくLotus
Notes &Domino
6 ▼2がこの種のツールで最も成功した事例であり、さらに現在は業務支援ツールと結合し、ワークフロー支援ツールの研究開発が盛んである。リエンジニアリングに関連し、オフィスの知的生産性を高める発想支援ツールの研究開発(*05-3)も盛んである。
非同期・遠隔型グループウェアは時間空間の制約なく使えるので、グループウェアとして望ましい数々の特質を持っている。電子メール、情報フィルタリング、ワークフロー、分散事務処理といったアプリケーションとのリンクが注目される。しかも電子図書館、エレクトリック(e)コマース、ブレーンストーミング▲の代行支援といった、極めて興味深いアプリケーションとリンクする研究が開始されつつある。時間空間の克服という利点があるので、この種のグループウェアは今後、大いに発展するものと期待される。
対面環境を超えるウェア
同期・同室型グループウェアは、デシジョンルームといった明確な研究開発課題とつながるので、昔からXerox
ParcのColab▼3のように多くの研究開発が行われてきた。しかしながら対面環境に優る情報環境を提供するのは極めて困難で、アメリカではデシジョンルーム、電子投票システム以外にみるべきアプリケーションは生まれていない。日本ではこの種のグループウェア研究として独自の発想支援ツールの研究(*05-4)が盛んに行われており、発散的思考支援ツール、収束的思考支援ツール▲の両者に実用に近いレベルのツールが生まれつつある。
同期・遠隔型グループウェアはテレビ会議の延長として、遠隔治療、遠隔教育▲、遠隔故障診断、同時通訳等の多くのアプリケーション開発が行われている。最初に挙げた会議ボトルネック(隘路)解消の本命であり、今後もコミュニケーション、共同作業、協調問題解決といった領域で、さまざまなアプリケーションとリンクしていくであろう。この種のシステムは対面環境を乗り越える高品質、高精度、高速の環境を廉価なコストで提供できたときに、アプリケーションが急激に広まるのであろう。
ただし、音声、画像、テキストとさまざまなメディアのリアルタイム融合が問題なので、リアルタイムOS▼4の標準化が問題であろう。本質的に時差のある問題を解決する支援環境の構築はなかなか困難である。
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