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知識創造の源泉としてのデザイン思考
野口尚孝
意思決定メカニズム論


人間の知識の土台を支える「モノづくりの知」

自然界に「知」が存在するとすれば、例えば数十億年という時間の中で淘汰と進化を重ねて出来てきたDNAのような「無意識の知」▲であろう。しかし、人間の知識▲は意識あるいは思考と切り離せない。自分と外界(自然界)の間に何らかの齟齬を感じたところから、思考という内面的行為が発生し、齟齬(問題)を解消するために外界(対象としての自然)へ働きかけ、それを人工物(モノ)としてつくりかえることで、問題を解決してきた。あらゆる時代を通じて人間は「モノづくり」を行なってきた。初期のものづくりは食料としての動物を捕獲するための石の槍や斧であったり、食物や水を蓄える土器であったりした。しかし、モノづくりの技術が進歩することによって次第に様々なモノがつくられるようになり、それに伴って生活様式が変化し、文明を生み出してきたと考えられる。
人間はモノづくりの過程で、とりあえず把握されたかぎりでの自然界の法則性に関する知識を問題解決に向けて意図的に用いる。その過程で徐々に自然界の法則性に関する認識を深め、やがては高度なモノづくりを可能にするとともに科学をも成立させたと考えられる。その意味でモノづくりは科学技術の母ともいえる。
モノづくりを目的と手段という関係でとらえかえしてみると次のようにいえる。モノづくりはモノをつくることで問題を解決しようとする目的意識的行為である。目的意識は問題を発生させている状況を「問題」としてとらえた人間の内部に発生するものであって、はじめは曖昧でぼんやりしている。問題解決への動因(モチベーション)としての目的意識によって、あらゆる知識が総動員されて「解決手段」として再構築される。その知識再構築の試行錯誤的過程から新たな知識が創造され、つくられるべきモノのイメージが生成されてくるのである。この全過程が本来の意味でのデザイン思考であり、モノづくりというかたちでの問題解決過程の中核である。したがって、つくられたモノはデザイン行為者が問題をどのようにとらえ、創造的に解決したかを示す客観的実体であると同時に、デザイン行為者の価値観や美意識の表現でもある。人間はデザイン思考によって新たな人工物を創造し、それによって多くの問題を創造的に解決するとともに、新たな思考や知識を獲得してきたのである。そこで、デザイン思考がどのような内容と構造を持っているのかをさらに深く考えてみよう。


知識獲得・運用・創造・表現過程としての
 デザイン思考

デザイン思考は言語的思考と非言語的思考の統合によって成り立っていると考えられる。言語は思考や知識の内容を他者と共有するために生まれたと考えられ、そのため概念という特有の抽象的な世界を形づくってきた。知識は他者と共有できるものとしては、つねにこの概念と結びついてとらえられてきたといってもよいであろう。しかし他方で、人間は感覚器官からの情報を概念に結びつける以前にそれを感じ取り、直接行動に結びつけることができる能力も持っている。デザイン思考においてはこの両方の能力をフルに使って思考が進められると考えられる。例えば、新しく子供用のイスをつくるという目的でデザイン思考を働かせる場合は、まず、イスという概念で表される対象の代表的な例が思い浮かべられ、それを「子供用の」という言葉で表される内容の意味を解釈することで、安全性、衛生、親しみやすさなどの子供用のイスが持つべき要件をデザイン条件(制約)として理解した上で、子供用のイスという特化されたイスの典型的イメージ(プロトタイプ)を思い浮かべる。しかし、プロトタイプをそのまま解にするのではなく、そこに自分の価値観や美意識を含めた子供用のイスに対する新たな判断や考え方を加え、新たな子供用のイスの形と構造を表出する。全く新しい人工物を考える場合には、当然プロトタイプが存在しないため、類推やアブダクションにより、つくられるべきモノのイメージを創出する。このデザイン思考の過程は、ただ腕を組んで考えるというものでは決してなく、アイデアスケッチを手で描きながら頭の中のイメージを外部に表出し、それを見ることでさらに新たな判断や考え方を触発するという試行錯誤的過程をとる。そこには不確定な心的イメージを、「描く」という身体的行為にもとづく表出により初めて確認するとともに、自分自身が新たな知識として獲得するという再帰的あるいは螺旋的思考過程を通じて、概念のイメージ化が行われるデザイン思考特有の試行錯誤過程がある。このような試行錯誤的思考過程から既成知識の再構築や新たな知識の獲得が行なわれ、そこから生まれた新たな知識の結晶がデザイン解という具体的な形で創出されるのである。
デザイン思考を中心としたモノづくりの知には、抽象的概念の論理的操作や、類推・帰納的推論・アブダクションなどによる、デザイン解の探索、それを暗黙知の働きを援用しながら具体的で感覚的なイメージとして表出するといった、知識の獲得・運用・創造・表現のあらゆる形の原型があるといっても過言ではない。デザイン思考を中核としたモノづくりの知の秘密を探ることこそ知識科学の基礎を構築する上で重要な要件であるといってもよいであろう。

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