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「発見と発明」を学問化する
國藤進
創造性開発システム論


知識発見の論理の基本構造とは

人類の進歩の原動力は、「発見」と「発明」という2つの創造活動を通じてである。しかしながら、これらが学問の対象として真剣に議論されだしたのはごく最近のことである。発見に関しては20世紀後半の科学哲学での検証可能性に関する議論を通じて、人工知能という学問分野で科学的発見の論理(*41-1)が追求されだしたのは、記憶に新しい。また発明の科学化に関する議論は発明ガイド・システムTriz▼1の部分的成功に後押しされ、今ようやくその科学化、発明科学の学問化がトライされつつあるのが現状と言えよう。ここでは発見の科学、特に知識発見の科学の現状について述べる。
知識発見の論理の基本構造を、科学哲学から論じたのがアメリカの哲学者パースである(*41-2)。問題意識が高く、専門的知見を習得したエキスパートが「ある観測事実 (驚くべき事実) を説明する仮説を直観的に発見する」という崇高な知識発見行為を、パースはアブダクション(abduction)▲という概念で説明した。パースは知識発見全体のプロセスを発想 (アブダクション) 、演繹▲ (ディダクションdeduction) 、および帰納▲ (インダクションinduction) の3つのプロセスからなると主張した[★41-1]。
これらのプロセスの学問上の形式化は、20世紀後半に多くの人工知能研究者によってなされた。演繹論理の立場では仮説推論、類推、等価変換の論理構造が明らかにされ▼2、帰納論理の立場では、数理統計学に基づく仮説検定論、ニューロネットに基づく汎化技術、データベース・テキスト・ウェブ からのマイニング技術が生まれた▼3。発想論理の立場では、各種の遺伝的アルゴリズム、知的触発技術、カオス的遍歴▲といった知識創発の技術が誕生しつつある▼4
有川の文部省特定領域研究「巨大学術社会情報からの知識発見に関する基礎研究」(*41-3)では、右記技術の「発見科学」という学問としての正当化を試みている。彼のプロジェクトでは「知識発見の論理」「推論による知識発見」「計算学習理論による知識発見」「データベースからの知識発見」「ネットワーク環境における知識発見」の5つの研究項目を取り上げている。知識発見という崇高な人間の行為を、ひとつの学問分野として自律発展可能なレベルまで進めるという目標は、計算機による発見の支援を前面に出すことで、ある程度成功したと言えよう。


  対応ARCHIVE
  アブダクション▲
12
  演繹▲
12 / 40
  帰納▲
12 / 40
  カオス的遍歴▲
32 / 33
  ▼1
Triz
Trizは1940年代にアルトシューラー(G. Altschuller)によって構築された発明のための理論である。アルトシューラーは技術システムの進化パターンを分析し、その本質を技術的課題の矛盾解消ととらえ、それを「知の発明原理」と称するアルゴリズム等に定式化することに成功した。
  ▼2
演繹論理の立場での知識発見は、基本的に与えられた未知の知識体系を、既知の知識体系へ翻訳し、そこでの知識を逆翻訳することによって仮説の生成(知識発見)がなされる。
  ▼3
帰納論理の立場での知識発見は、基本的に与えられた個別知識を汎化あるいは一般化することによって得られる。閉じた知識体系を考え、そこで可能な汎化をすべて列挙しつつ、仮説・検証を繰り返すことで、個別知識を説明する一般的知識を得る。
  ▼4
発想論理の立場での知識発見は、基本的にどのような知識でもよいから、それを活用し有用な仮説を生成しようとする。開いた知識体系を前提とし、前もって想定できない知識が偶発的に創造されれば良しとする。
 
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