ソフトシステム方法論の本質とは
ソフトシステム方法論(SSM)では、「人間は自分が経験した現実に対して意味を与え、その意味に沿って自分の意図的な行為▼1を決定する」という意図的行為に着目する。この方法論は1970年代にアクションリサーチ▼2の考え方から生まれ、「行為からの学習」を基本形とし、混沌とした現実(例えばマネジメントにおける意思決定問題)から「何をすべきか(what)」を明確にし、次に「いかにすべきか(how)」を効率だけではなく、問題が置かれた場の文化・風土的な実行可能性まで含めて決定し、実践する。さらに、決定された行為の実践だけにとどまらず、観念および観念を体現した方法論自体も自省により変化させていく学習プロセスである。これは、混沌とした現実世界に対処する際の「知的道具」になったとき、特に威力を発揮する[★35-1]。
ソフトシステム方法論のモード2と呼ばれる基本形▼3は次のステージからなる。
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問題状況を文化・風土、場合によっては政治的な面まで含めて洞察する:「リッチピクチャー」と呼ばれる図表[★35-2]により、問題状況を描画することを推奨している。形式は任意であるが、問題状況を適切に表現していることが重要である。 |
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問題状況に関連する意図的活動のモデルを構築する:リッチピクチャーをもとに、意図的活動の核となる意図(状況を現状から望ましい状況へと変換するためのプロセスであり、「基本定義」と呼ばれる)を表現する。次に、基本定義をもとにその状況に関連する見方や考え方を表現したモデル(「概念モデル」と呼ばれる)を構築する。この概念モデルは問題状況自体を表現するモデルではなく、変革の探求者が問題状況に何らかの関連をもつと考えるものを表現したもので、ステージ3の具体的な変革を導く議論で用いられるものであり、議論の結果として棄却されることもある。このモデルは、反論可能か不可能かという観点から構築される。 |
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導出したモデルを現実の状況と比較することにより、論理的で、全体性を考慮したときに望ましく、文化・風土的に意味ある変革へと導く意図的行為を決定する:ステージ2で表現したモデルと現実を比較することから始め、問題状況についての体系的で整合性のあるディベート(討論)により、変革および変革へと導く意図的行為を考え出す。次に、その変革の実行可能性を吟味する。ここでは、変革の大きさではなく、その変革の意味を重視する。 |
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変革へ導くために、状況を打開する意図的行為を実践する:意図的行為が改革のために実践される。このような行為は、事前に論理性かつ全体性が考慮され、さらに文化・風土のふるいにかけられており、知覚された問題状況を手順通りに改革することが期待される。 |
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改善された状況をもとに、自省し、観念の枠組み自体を変化させる:適用した方法論と事象の相互作用を意識的に自省し、それに基づき観念および観念を体現した方法論を変化させる行為が、メタ・レベルでの方法論の使用であるということをはっきりと示すものである▼4。 |
「ソフトシステム方法論」から「組織的知識創造」へ
ソフトシステム方法論の創始者であるチェックランドは、「知識を獲得することは、新しい、事象の公的および私的な経験を獲得することである」と述べ、さらに「経験に基づいた知識から導かれた意図的行為を起こしたとしたら、その行為自体が新たな経験となる。そこから新たな経験に基づいた知識を獲得する。このプロセスは不変であるが、内容は常に変化する。すなわちこのプロセスは、基本的には探索と学習のプロセスである」と述べている。ここで工学的な技法や方法はその利用者とは独立しているが、方法論はその利用者から独立して存在することはないという立場に立ち、特に探索の焦点を、問題状況を意図的に改善する自分流(組織流)のやり方を学習し発展させるプロセスに当てている。
経験に基づき、正当化された知識を活用して意図的行為を導き実践し、そのプロセスでの経験をさらに正当化するプロセスはまさに知識創造▲である。ソフトシステム方法論を組織的な知識創造という観点から考察し、発展させることはナレッジマネジメント▲実践にとって有意義であり、この分野における今後の研究の進展が望まれる。
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