「相互関係」としての「場」
知識創造は決して真空中で起こるのではない。知識創造には時間的・空間的なスペース、つまり「場(place)」▼1が必要である。
場は物理的、仮想的、心理的空間に作られるが、空間そのものが場ではない。日本語の「場」という言葉は、物理的な場所だけでなく、特定の時間と空間、あるいは「関係」の空間を意味している。会議室を例に取れば、そこに誰もいなければ会議室そのものは場たりえない。人がその会議室にいて、人と人との間でやり取りがあってはじめて、そこは場となる。つまり、知識創造における場の本質は「相互関係」である。知識は文脈から切り離しては存在できず、文脈とは相互関係である。個々人がそれぞれの文脈を持ち寄り、「共有された文脈(shared
context)」としての場[★03-1]を形作り、その中で共有された文脈も個々人の文脈も変化していくことにより、新しい知識は創造される。したがって、知識創造プロセスは場の創造プロセスであり、新たな関係の境界生成であるといえる。「個人・集団」「直接・間接」という2つの軸により相互関係を分類すれば、場は以下の4つのタイプに分けられる。
第1に、「創出場(Originating Ba)」は個人的かつ直接的(face to face)相互関係によって規定される、個人が経験、感情、メンタル(心理的)モデルなどを共有する場である。
第2に、「対話場(Dialoguing Ba)」は集団的かつ直接的な相互関係によって規定される場である。対話場は創出場に比べ、意識的に形成される側面が強い。企業における組織横断的なプロジェクトチームは対話場の典型である。適切なミッション、人材配置、最適な資源配分等により、イノベーション▲へ結びつく効果的な対話場を作り上げることが重要である。
第3に、「システム場(Systematizing Ba)」は集団的かつ間接的な相互関係によって規定される場である。この「場」では時空間の共有は必ずしも不可欠ではなく、仮想的な空間で相互作用が行われる場合が多い。イントラネットなど、情報技術が最もよく機能する場である。
最後に、「実践場(Exercising Ba)」は個人的かつ間接的な相互関係によって規定される場である。個人はマニュアルやシミュレーションプログラムといったメディアを通して伝達された形式知を実践の中で暗黙知として、自己の内部に取り込み統合する。知識創造が組織的に行われるためには、「場」が多層かつ多文脈にまたがって組織や企業の中で整備されていることが必要である。それゆえ、これら4つの場が絶えず循環的に生成され、利用されるような仕掛けが要請される。
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