グループより組織化されていない「コミュニティ」
コミュニティウェアとは、何らかのゆるやかな共通性をもつが、組織化されておらず共通の到達目標も特にもたないような不特定多数(ないし特定多数)の人々で構成されている集団(これを「コミュニティ」と呼ぶ)における人々の各種活動を支援するシステムやツールの総称である。人々の集団による協調作業を支援するシステムとして、従来からグループウェア▲の研究がなされているが、グループウェア研究では一般に共通の明確な到達目標をもつ、組織化された特定少数の人々(狭い意味でのグループ)による協調作業を支援するシステムを扱ってきた点で、コミュニティウェア研究と異なっている。もう少し技術的、あるいは通信インフラ的な側面から両者を比べると、主にイントラネット▼1などのLocal
Area Networkによって接続された人々の集団における協調作業を支援するシステムがグループウェアであるのに対し、インターネットやモバイルコンピューティング環境などのGlobal
Area Networkによって接続された人々の集団における活動を支援するシステムがコミュニティウェアであると考えてもよいだろう。
コミュニティウェアが支援する活動は、比較的初期段階の社会的インタラクション(相互作用)である(このため、コミュニティウェアは別名ソーシャルウェアとも呼ばれる)。すなわち、コミュニティ形成そのものも支援対象であるし、また形成されたコミュニティにおける情報や知識の共有、コンセンサスの形成、構成メンバー同士の活動状況伝達なども支援対象となる。
たとえば、ATR知能映像通信研究所で開発されたC-MAP(*06-1)というシステム▼2では、大学の研究所見学者や学会の参加者に携帯端末を配布し、各自が面白いと思った展示内容や発表は何であったかを登録あるいは自動認識することなどによって各利用者の興味情報を収集し、これらを比較することにより、興味が類似した利用者たちに対し「○○さんはあなたと興味が近いので、一度お話してみてはいかが?」というような提案を行うことで、コミュニティの形成を支援している。
また、北陸先端科学技術大学院大学▲知識科学教育研究センターで開発されたHuNeAS(*06-2)というシステム▼3では、自分が今抱えている問題を公の場で公開提示して通りすがりの人に見せることによって、特定多数の構成員(同じ研究科に属する数百名の教官・学生)からなるコミュニティにおける情報や知識▲の共有を支援することを試みている。
なお、コミュニティウェアの実用化に当たっては、システム利用者のプライバシー保護が常に問題であり、これをいかに解決するかが重要な課題のひとつである。また、今後ユビキタスコンピューティング▲研究との関連性も深まってくると思われる。
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