問題解決や意思決定を支援する
「発散的思考▲」と「収束的思考」という言葉は、米国の心理学者ギルフォードによるものである。発散的思考は、ブレーンストーミング▲などによりさまざまなアイデアを発散させるときの思考の働きを指しており、収束的思考は、発散的思考により集めたバラバラなアイデアの集まりをまとまりのあるものに集約していくときの思考の働きを指している。創造的な問題解決のためには、両者は本来切り離すことのできないものであるが、特定の技法(あるいは支援ツール)を取り上げるとき、どちらにより重点が置かれているかにより、発散的あるいは収束的のどちらかに便宜的に分類することが多い。収束的技法の分類と特徴を★40-1に示す(*40-1、*40-2)。上位概念が不明であったり、それ自体を打ちこわして斬新な発想が求められたりする場合には帰納▲型が適しており、情報を既存の上位概念でまずまとめるなど、思考を節約する場合には演繹▲型が適している。因果型は問題点を見つけ出す場合に、時系列型は仕事のスケジュールを組む場合に有効である。
収束的技法の代表的なものとして、日本で創始されたKJ法▲がある(川喜田)(*40-3)。
KJ法は、当初、新しい仮説を見いだすために、文化人類学などの分野における野外調査を通して得られた生のデータをシステム化するための技法として開発された。しかし、今日では、研究、教育、ビジネス、産業などの広範な分野における定性的データに基づいた問題解決への科学的、系統的接近法として有名である。その全プロセスは、問題提起、取材、本質追求、構想計画、具体策、手順化、実施、検証、観賞のステップからなるが、このうち本質追求の部分がKJ法の核心をなし、狭義のKJ法と呼ばれる。狭義のKJ法は、集めた情報群において似たものをグループ化し、そのグループの意味するところを帰納的に表現するという手順を何段も繰り返し、図解として空間配置を求め、叙述化を通じて創造的問題解決を図るもので、空間型の帰納法として代表的なものである。その手順を★40-2に示す。
KJ法は創造的な問題解決に関する「精神」と「技術」の体系であり、その枠組みの広さ、経験の厚み、考察の深さなどにおいて長く積み重ねがなされてきている。精神に関しては、日本的思考法として「データをして語らしめる」「全即個」「心の姿勢」などの象徴的な用語により精神面の重要性が強調されており、西洋的合理主義とは異なる性格をもっている。それに対し技術に関しては、取材の仕方、ラベル操作、図解作成などの方法や手順が小道具を用いた手作業として細かく具体的に示されており、大変分かりやすいものとなっている。そのためか、我が国における収束的思考支援システムの研究開発への取組みは、KJ法を参考にしたものが多い。
さまざまな支援のシステム
収束的思考支援システムとは、これらの技法を参考としながら、計算機やネットワークの環境を援用して、個人やグループの問題解決支援や意思決定支援などを図ることを目的とするツールである。したがって、発想支援、会議支援、グループ意思決定支援、グループウェア▲、協調支援などと密接に関係しており、ナレッジマネジメント▲における暗黙知▲から形式知▲への変換を意味する、表出化支援ツールとして位置づけられることもある。KJ法を参考としたさまざまな収束的思考支援システムや海外で開発された代表的な収束的思考支援システムをまとめて★40-3に示す(*40-4〜8)。
以上述べたように、これまで開発されてきた各種技法においては、創造的な問題解決における人間の情報処理に関し、広く、かつ綿密な考察が行われていることが多いので、これらを参考として人間とコンピュータの交流型の思考支援システムを構築することは、知識科学やコンピュータ科学の新しい領域を切り開く可能性を秘めている。
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