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企業の技術知識資産をどう維持・発展させるか
亀岡秋男
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テクノストックの基本コンセプト
技術知識はどのようにして生まれるのか。まず、研究開発に投資すると、その「資金」は「技術」に変わる。この技術を応用して「製品」をつくる。すなわち、技術開発(engineering)によって「技術」から「製品」への変換が行われ、これを販売して「資金」を回収する。製品はサービス価値を利用者に提供しその対価としてお金を得る。この際、利益が出れば再投資に回すことができる。ここでは「金」→「技術」→「製品」→「金」という、3度の「変態(metamorphosis)」を繰り返す。この一連の循環サイクルを発展的にマネージすることが、技術経営▲(MOT)である。
これを企業レベルでとらえたものが、★11-1に示す「コーポレート・テクノストック・モデル(Corporate Technology Stock
Model)」である。研究・技術開発(RTD:Research & Technology Development)▲は、まず研究に対する投資から始められる。投資されたお金は、研究開発活動に使われ、一定の時間を要するが、技術知識が創出される。これは、特許や論文などの形式知として、あるいは研究技術者個人や組織に暗黙知としてテクノストック(技術知識資産)が蓄積される。
コーポレート・テクノストック・モデルは、(1)研究開発投資(人や設備の投入)、(2)研究開発の実践、(3)技術知識の創出(テクノストック)、(4)製品(サービス)の開発、(5)製品(サービス)の販売、(6)利益回収・投資への還元、という6ステップでワンサイクルになっている。この概念モデルは、所定の仮定のもとに数値モデルで表現し、シミュレーションすることができる。しかしながら、蓄積された技術知識資産は、その時点から陳腐化が始まる。設備投資に対しては、減価償却という概念が定着し、会計上も毎年所定の額で設備の現存価値が減価することになっている。
コーポレート・テクノストック・モデルの特徴は、この減価の考え方を研究開発投資にも適用しようとするところにあり、技術知識の「陳腐化(depreciation)」という概念を導入し、企業レベルで展開したことである。陳腐化のレートは技術分野によって、あるいは環境条件によって変わってくる。また、テクノストックは基礎的ストックと応用的ストックとに分けられる▼1。このモデルを数値化することで、さらに活用しやすくしている。これによって数値シミュレーションを実施することができ、投資額の策定ガイドライン、効果的な投資のタイミング、複数分野への投資配分、持続的利益回収再投資などのシミュレーションを行うことができる。これは、企業として競争力を保つには総額どの程度の研究開発投資が必要か、特定事業分野にどれだけの額をどのタイミングで投資すればいいのか、製品ごとのポートフォリオ投資▼2をどのようにバランスさせるか、持続的な投資はどの範囲内でやるべきかなどについて、技術戦略・経営戦略を構築する有力な方法論になるだろうと期待されている。
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