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Chapter1 知のダイナミクス
知の組織的な創造
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05

06
07
知識創造企業
SECIモデル

ナレッジマネジメント
グループウェア
コミュニティウェア
アウェアネス支援
知の戦略的な活用
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技術経営
企業の技術戦略
知識資産
テクノストック
テクノプロデューサー
情報システム企画
方法論
社会システムとしての知識
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101
102
産業競争力
知的財産権
社会資本
知識創造自治体
政策知
人間力革新
新産業創出

Chapter2 知のエレメントChapter3 知のメソドロジーChapter4 知のエンジン
 

何のための競争力か、その原点を問う
亀岡秋男
研究開発プロセス論


低下する日本の競争力

最近、わが国でも競争力(competitiveness)強化が強く叫ばれている。日本の国際競争力が国のレベルでも企業のレベルでも凋落しているとの危機意識からである。いったいどこに問題があるのか、その強さと弱さを客観的に把握し強化戦略を練り直す必要があることは言うまでもない。しかしながら、何のための競争なのか、人類が21世紀を豊かに送るために、改めて競争の本来のあり方を考え、今後の課題ならびに対応策について考えてみたい。
産業競争力(industrial competitiveness)という考え方は、1980年代の初頭、米国政府に組織された、米国大統領産業競争力諮問委員会(ジョン・ヤング委員長:当時のヒューレット・パッカード社長)から始まった。この委員会は、1985年、米国が産業競争力強化に注力していく重要な転機を与えた、通称「ヤング・レポート▲」と呼ばれる産業競争力報告書を発表した(*14-1)。これを契機に「メイド・イン・アメリカ」をはじめ競争力強化の政策が次々と提案され実行され、米国は競争優位を確立していった(*14-2)。
さて、日本の産業競争力は世界的に見てどうなっているのか。「産業技術」の視点からの国際比較調査によると、「情報家電」が特段に強く「生産技術」も強い。新素材、電子デバイスは比較的強く、電子・光学材料、情報、エネルギー、環境、インフラは同等で、将来的には優位な方向に進むとみられている。明らかに劣勢なのは、バイオ、ソフト、通信、医療である。特に問題なのは「経営・人材その他」で、マネジメント力の弱さが指摘されている。スイスのIMD(国際経営開発研究所International Institute for Management Department)の調査でも科学技術の世界ランキングが2位とはいえ、技術マネジメントは非常に弱いとされている。しかし、これを逆手にとらえると、経営力を強化することは競争力を回復する改善策として非常に期待がもてるということでもある(*14-3*14-4*14-5)。
わが国の産業競争力をどう高めるか、それにはまず、技術マネジメントの能力向上が必要である。米国は1980年代、日本のマネジメント研究に注力した。この時にとられたのは「ベンチマーキング」(benchmarking)の考え方と方法論である。
 米国では、1980年代以降、企業経営や生産方式、さらには研究・技術開発(RTD:Research & Technology Development)▲のやり方についてもベンチマーキングが盛んに行われた。このベンチマーキングは、GE社でいう「ベストプラクティス」(Best Practice)と同じで、外部からでも〈良いものはどんどん学ぼう〉という考え方である。これはNIH(Not Invented Here : ここで作られたものではない)意識のからの脱却であり、自意識の強いアメリカにとっては大きな意識改革でもあった。したがって、当時、脅威とされていた日本の生産方式なども、謙虚にどんどん吸収していった。最近のアメリカには、お互いに教え学び合うのがよしとする風土が醸成されてきている。これは製造部門だけではなく、トップマネジメントをはじめ、コーポレートスタッフやコーポレートラボラトリーなど広い範囲で実践されている。一旦よいと分かれば、徹底して追求する謙虚な姿勢と論理的なアプローチの方法論、さらにそれを実践する熱意の強さがうかがわれ、米国の底力の強さを実感させる。

技術経営(MOT)ベンチマーキング・フォーラム

お互いに利益になる情報を交換するというのがベンチマーキングの基本的な考え方である。いろいろな尺度で物事をきっちりとベンチマークし比較することで、本質が鮮明に見えてくる。ベンチマーキングの方法論も進歩している。ここに提案しようとする技術経営(MOT)ベンチマーキング・フォーラムには、企業だけでなく、大学やコンサルティング会社の「知」も取り入れようとしている。
企業の研究・技術開発システムは、その企業の経営風土や技術開発体制の中で発展してきたもので、それぞれ企業の特徴をもっている。特に、日本企業はこれまで技術経営に関する相互交流が少なく、各社各様で閉鎖的であった。欧米ではMBA(Master of Business Administration)やMOT教育研究プログラムが発達しており、大学を中心にケースメソッドによる事例研究も多い。産学交流も盛んであるため、技術経営に関する意見交換の場も多く、専門用語も発達している。
日本で最も実践的で即効的成果が期待できる方法として、産学連携によるベンチマーキング・フォーラムを提案したい。★14-1はその基本コンセプトを示している。個別企業は、自社の事例を提供しながら他社の優れた点(ベストプラクティス)を共有する。コンサルタントも個別の手法を相互に提供し合い、討論を通して新しい方法論を考察しシェアする。大学は企業から実践事例の提供を受け、ケーススタディーに基づき体系化する。さらに各社独自の創造的なイノベーションプロセスを設計する理論的基盤を整備する。このような相互学習による相乗効果を参加者が共有できる、新しい「知識創造の場」を創設することで、全体として総合効果を高めようと考えている。
単なる競争力強化という考え方から脱却して、故猪瀬博氏の提唱した新しい競争理念▼1を深く受けとめ、欧米的な競争概念を超えた東洋的思想に基づく新しい共創的な「総合競争力」の概念を携え、世界に働きかけていく必要があろう。


  対応ARCHIVE
  ヤング・レポート▲
15
  研究・技術開発
(RTD)▲
11
  ▼1
真の競争力とは?
故猪瀬博氏(元国立情報科学センター長、元東京大学総長)は、2000年7月7日、社団法人「科学技術と経済の会」産業科学技術競争力委員会委員長としての基調講演の中で、今後日本のとるべき新しい競争理念を説いた。「競争する(compete)という語は、ラテン語のcompetereに由来する。comは〈共に〉の意、petereは〈求める〉の意であり、したがってcompetereとは、〈共に求め合う〉を意味する。何を求め合うのか? それはイデア(idea)すなわち人類の理想である。理想を求め合うとき、人々は互いに助け合い、また競い合うことによって切磋琢磨に努める。互いの欠点や誤りを是正し合い、かつ互いの美点や正しさを認め合うことによって、理想を追求するのが、真の競争の姿でなければならない。競争力とは、自己鍛錬の力でなければならず、権力、駆け引き、詐術などを駆使して他に優越しようとする力であってはならない。競争の目的は人類の理想の追求だからである」と諭され、人文科学と自然科学を統合する「総合競争力」という新しい理念を説かれた。
 
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