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Chapter1 知のダイナミクスChapter2 知のエレメント Chapter3 知のメソドロジー
部分と全体をまたぐ
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システム方法論
ファジィモデル
カオス
複雑系
ラディカルな知の問い直し
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構成論的手法
ソフトシステム方法論
知識の体系化
科学計量学

Chapter4 知のエンジン
 


関係概念により複雑なものごとを理解し問題を解決する
 非公式なコミュニケーション
中森義輝
複雑系解析論


「全体は部分の単なる寄せ集めではなく、それ以上のものである」という文は、アリストテレス(BC384―302)のものであるとされている。システムについて言及するときしばしば引用される言葉で、システムの創発特性を示すものである。このように、「集まり方」の重要性は人類史において古くから認識されてきた。要素間の関係に注目した集団の認識の仕方を「システム思考」▼1という。集団が何の集まりであるかという実体的認識ではなく、いかに集まっているかという関係的認識である。

 

システムズアプローチ

「システム思考法」に基づいた体系的・組織的な問題への接近法を「システムズアプローチ」あるいは「システム方法論」という。方法論とは技術ほどの詳細さは持たないが、哲学よりは詳しい行動のガイドラインである。
もともと「システム」の概念はいくつかの学問領域の中に存在してきたのであるが、独立の科学として扱われるきっかけは、ウィーナーによる「サイバネティックス」の提唱であった(1948)(*30-1)。サイバネティックスは、ギリシャ語の「船の舵を取る人」を指すことばを語源としている。ウィーナーは動物と機械における制御と通信の研究に対して、サイバネティックスという用語を採用している。
この後、全体性についての抽象的な概念を「システム」と名づけたのは生物学者ベルタランフィである(1968)(*30-2)。彼の一般システム理論は、特定の概念を抽象化された一般的概念に置き直すことによって、問題を解決しようとする理論である。対象の理論や問題の本質を失わずに、最も一般的な概念構成を見つけ出すことを狙いとしている。
さて、システムは環境変化に対して適応することが求められる。その際に導入される概念は、出力とフィードバック▼2である。生命システムは環境と物質、エネルギー、情報の交換を常に行っている。その間、システム自体の特質は変化しないが、構成要素は入れ替わっている。これをホメオスタシス、すなわち恒常性という。ホメオスタシスに対抗する力がエントロピーである。これは、ものごとが無秩序な方向に変化していく傾向を表す概念である。エントロピーが示唆するのは、機械、組織、社会などは急速に劣化して無秩序状態、崩壊に至ることがあり得るということである。生命体が簡単に崩壊しないのは、物質とエネルギーを取り込んで常に自己組織化を行っているからである。したがって、機械、組織、社会システムに対しては人間がエネルギーを与え続けなければならない。
近代科学は客観性を重んじ、主として分析的なアプローチにより「ものごと」の本質を明らかにしようとしてきた。 近年、人間が扱う対象が複雑・大規模になってきたことから、このような総合性を基本的思想とする科学である「システム科学」が登場した。しかしながら、システム科学は他の科学技術と同様、西洋の近代合理主義の路線上を歩んできた。したがって、人間の意思や行動に左右されるようなシステムに適用しようとするとき困難に直面することとなった。複雑で大規模なシステムを扱おうとするとき、システム科学、ひいては応用数学的側面を重視した「システム手法」▼3だけでは、もはや成功しないことは明らかである。

 

知識を創造するための「システム方法論」

「システム方法論」を人間が要素として含まれるような大規模複雑なシステムに適用しようとするときには、文化圏の独自性を考慮したアプローチをとらなければならない。知識の統合と創造を中心テーマとする「知識科学▲」も同様に文化圏独特の取り扱いが求められる。一方、最も信頼のおける知識は、科学的調査によってもたらされる公共の知識である。これには、たとえば経済活動による温室効果ガス排出量、食品添加物の健康への影響といった知識が含まれる。さらに社会科学においては、知恵に基づく知識、洞察に基づく知識、経験に基づく知識が用いられる。これらは主観的、あいまい、多義的、状況依存的であり、人々が付け加える意味を含むことを避けられない。
★30-1は、これらのさまざまな種の知識を統合し、新たな知識を生み出す「知識創造システム」の概念を示している。物理法則、データ解析手法などを駆使した科学的分析手法、大規模なコンピュータシミュレーションという情報科学の手法、組織や社会の構成員のパートナーシップ形成に関する社会科学的手法、知識の統合・変換・創造についての知識科学的手法、およびそれらを総合的に管理するシステム科学的手法を有機的に用いる方法論である。
この方法論の目的は、統計的データと個々の人間のもつ断片的知識を組み合わせて、誰ももっていない知識を導出することである。新しい知識は創発的知識と呼ぶことができるが、明示的に表現することができない暗黙知▲である。したがって、創造された暗黙知を形式知▲に変換するプロセスを我々のシステムは保有していなければならない。これはすなわち、プロジェクトのメンバーあるいは問題関与者が知識創造システムの一部を構成することを意味する。すなわち、知識創造システムは参加型システムでもある。


  対応ARCHIVE
  知識科学▲
07 / 12 / 20 / 27 / 29 /
47 / 64
  暗黙知▲
21
  形式知▲
02 / 07 / 08 / 18 / 21 /
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  ▼1
システム思考
システム思考においては、集団を関係概念という秩序で認識することが基本的姿勢であり、具体的には対象を以下のような観点から認識する。
複数個の要素の認識

相互関連性の認識(要素間、要素と全体)

全体性の認識(全体としての統一性、秩序)

機能的認識(実体よりも機能重視)

階層的認識(認識レベルのシフト)

入出力認識(入出力を有した状態記述)

環境適応性の認識(オープン・システム)
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フィードバック
複雑系を有名にした一人であるブライアン・アーサーは正のフィードバックに注目した経済理論を提唱している。これまでの経済理論は収穫逓減を説いてきた。すなわち、一部の生産要素、たとえば労働時間を一単位追加すると、限定的には収穫の増加分が逓減する。しかし、正のフィードバックが働き、収穫逓増という現象が現れることがある。研究開発やハイテク技術に基づく新しい産業の特徴である。ただし、一般にフィードバックというときは、「価格が下がる」→「需要が増える」→「供給が間に合わない」→「価格が上がる」などのような負のフィードバックを指すことが多い。
  ▼3
システム手法
システム方法論は問題解決のプロセス全体にかかわるものであるが、その各段階で使用される問題の構造化、分析、評価、モデリング、最適化、シミュレーション手法を総称してシステム手法という。
 
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