急速に普及する電子商取引
インターネット▲の発展に伴い、ネットワーク上での商取引が盛んに行われている。ネットワーク上には多数のショッピングサイト▲が存在し、消費者はショッピングサイトを通して商品を購入できる。例えば、ネットワーク上の書店としてアマゾン・ドットコム(Amazon.com)▼1が挙げられる。
Amazon.comでは、顧客はウェブブラウザを通して、何万もの図書の中から、自分の必要な本を探し出し、購入できる。顧客それぞれの本の好みに合わせた推薦機構なども備えている。Amazon.comは創業当時は赤字が続いたが、創業者ジェフ・ベゾス(Jeff
Bezos)の予測通り2001年第4四半期決算には黒字転換した。インターネット上の商取引が現実にビジネスとして受け入れられていることを証明している。
Amazon.comなどのショッピングサイトでは、値段は売り手が決める。一方で近年、商品の値段をオークションによって決定するようなオークションサイトが普及し始めている。例えば、ヤフー・オークションズ(Yahoo!
Auctions)▼2やビッダーズ(BIDDERS)▼3などがある。オークションサイトは、最近2年程度で急激に普及している。例えば、Yahoo!
Auctionsでの商品の出品総数は200万を超えている。また、興味深い事例として、航空券の販売を行うプライスライン・ドットコム(priceline.com)▼4では、消費者が航空券の価格をつけるのではなく、航空会社が互いに競い合って航空券の値段を下げていくようなオークションを行う。これは「逆オークション」と呼ばれ、消費者が競争し価格を上昇させるオークションとは形式が逆になっている。
右で述べたネットワーク上の書店のような企業と消費者の間の取引をB2C(business to consumer)と呼ぶ。また、Yahoo!
Auctionsなどのオークションサイトでは、消費者同士が売り手と買い手になっているケースが多い。このような消費者間の取引をC2C(consumer
to consumer)と呼ぶ。さらに、企業間の取引をB2B(business to business)と呼ぶ。電子商取引は以上の3つのタイプに分けて論じられることが多い。
商品検索から交渉までをソフトで支援
電子商取引はネットワーク上で行われるため、商品の情報、企業や消費者の情報など、大量の情報を処理する必要がある。具体的には、大規模な情報ソースからの商品の検索、WWWページの監視、および商品の価格のダイナミックな設定などのタスクがある。これらのタスクは、人間にとっては非常に煩雑であり、ソフトウェア技術およびAI▲技術の絶好の応用分野である。以上の背景から、ソフトウェアエージェント▲を使って電子商取引を支援する研究が活発に行われている。ソフトウェアエージェントとは、人間の代理として、ネットワーク上で自律的・協調的に仕事をこなすソフトウェアである。
例えば、複数のショッピングサイトに対して、商品の検索や値段の比較を支援するショッピングエージェントや、複数のオークションサイトに対する商品の検索、監視、入札を代行するBidding支援エージェントが開発されている[★53-1]。これらのエージェントは主にB2Cの商取引において消費者を支援する。さらに、ソフトウェアエージェントが消費者の代理で価格交渉を行うエージェントによる電子マーケットに関する研究も活発に行われている。例えば、MIT▲のメディアラボではKasbah(Chavez,
1996)(*53-1)、ミシガン大学ではAuctionBot(Wurman, 1998)(*53-2)という電子マーケットが実現されている。このような電子マーケットを実現する上で、重要なのはエージェント間の価格交渉の仕組みである。
エージェント間の価格交渉の仕組みは、ゲーム理論やミクロ経済学で用いられるツールによって解析・設計される。最近、特に注目されているのがオークションである。一般的にオークションは、競り上げ(English)型や競り下げ(Dutch)型などに分類される。しかし、これらの一般的なオークションは必ずしも理論的に望ましい性質が得られるわけではない。「理論的に望ましい」とは、ゲーム理論やミクロ経済学で使われる誘因両立性▼5やパレート最適▼6などの性質を満たすことである。一言で言えば、社会全体としての利益を最大化することである。そこで、理論的に望ましい性質が得られるようなオークション手法が開発されている。さらに、複数の商品の組み合わせに対してオークションを行う組み合わせオークション、売り手も買い手も入札を行うダブルオークションなどが提案されている。これらのオークションは、最終的な商品の落札者を判定するために、多くの計算を必要とする場合が多く、計算機による支援が必要となる。
電子商取引では、多数の商品・売り手・買い手の検索支援、WWWの監視支援、交渉支援が必要である。これらを支援するためには多くの計算量が必要となり、人間が自分で行うことがますます困難になっている。すなわち、電子商取引の支援は、ソフトウェア技術やAI技術の絶好の応用分野であり、これらの技術を用いた支援を実現することによって、より効果的な電子商取引の促進が期待できる。
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