10億分の1メートルの技術革新る
「ナノ:nano」は、10のマイナス9乗、すなわち10億分の1を意味する。ナノテクノロジーの場合は、メートルに対して使われているので、正確に言えばナノメートル・テクノロジーである。ナノメートルより小さなサイズの世界は、原子の世界である。原子の種類は、周期律表に見られるように約100種類である。これに対しナノメートルの世界は、原子や分子が結合して創られる世界であり、その結合の仕方により、原子の世界をはるかに超える物質の多様性が生み出される世界である。自然界の多様性を最も微細、かつ基礎的なレベルでとらえられるのがナノメートルの世界なのである。ナノテクノロジーを定義すると「ナノメートル・スケールに特徴的な機能を発現させ活用する技術」となる。このナノスケールに特徴的な機能の意義に着目した米国は、2000年にこの分野の開発をひとつの国家戦略とすることを発表し、世界的なナノテクノロジーブームの発端をつくった。
ナノテクノロジーを支える技術的アプローチは2つに分けることができる(*63-1)。ひとつは、トップダウンアプローチと呼ばれる。これは、ナノスケールより大きなサイズの材料を微細に加工してナノスケールを実現するというアプローチである。従来の半導体技術が代表するアプローチで、エッチング等の加工技術によりナノスケールを実現するものである。2つめは、ボトムアップアプローチと呼ばれる。ナノスケールより小さなサイズの原子、分子を積み上げてナノスケールを実現するというアプローチである。物質自体の機能を活用して、規則的な構造を自然発生的に創る自己組織化もボトムアップアプローチに含まれる。このボトムアップアプローチは、例えば無機材料、半導体材料、バイオ材料のように、従来は相互に異なった手法で研究開発が行われていた材料分野について、共通した開発視点や開発手法を実現し、新しい相乗効果を発生する可能性がある。一例を挙げれば、バクテリアを使って電子デバイス▼1を実現するといった可能性がある。より具体的には、ある条件下ではバクテリアが自発的に整列することを利用し、必要な半導体材料を体内にもたせたバクテリアを整列させ、ICをつくるといったことが検討されている。
新しい材料の開発を可能とするナノテクノロジーは、情報技術やバイオ技術、その他の製造業分野の進歩を材料側面から支える共通基盤技術である。その進歩、発展により、広い産業分野の競争力を強化することが可能である。このことが、ナノテクノロジーの産業技術としての特徴と意義である。わが国にとっては、21世紀初頭の産業競争力強化の試金石といえ、効果的な産官学連携等で一層の開発強化を図るべき技術である。
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