知識をいかに体系化し、利用するか
我々は皆、未整理な知識を膨大にもっており、体系的なものにしたいという欲求を本来的にもっている。ある場合には職場で培(つちか)った知識であり、またある場合には個人的な趣味の知識である。自分の興味のある分野をどのように表現し、利用可能な形にまとめあげていくかを考える作業は大変楽しい。
このようなものを広く知識▲の体系化(オントロジー▲)の研究と呼ぼう。具体的な事例分野を通して、いかにして体系的知識を構築し、利用に結び付けるかを模索する研究である。形式化に適する知識、経験や体験としての知識、体系化が未開な分野の知識、広大なさまざまな要素からなる知識の体系化と利用の方法論や支援ツールの研究を行う。最近のコンピュータとネットワークの進歩は、豊富な知識表現ツールと社会に向けての効果的な成果発信ツールを提供してくれるようになったので、ますますやりがいのある研究となっている。今後、知識科学の研究・教育における重要な柱のひとつを形成するものであると考えられる。
このような研究において次のような3つのアプローチが区別される。ひとつは、「工学的オントロジー」である(溝口)(*36-1)。工学的立場▼1から形式レベル、モデルレベルにおいて、概念の体系的記述とその利用を研究するものであり、対象を人間とコンピュータの双方にとって理解可能な形式で記述し利用する方式を探求する。このようなオントロジーをベースにし、問題解決など人間の知的行為の代行を図ったり、組織内での知識共有の基盤を提供することができる。筆者の研究室では、企業派遣の学生が「ソリューションビジネス▲のメニュー体系の構築」というテーマで工学的オントロジーに挑戦した例などが挙げられる。次は、「メディアオントロジー」とでも呼ぶべきものである。ホームページ構築などの手段を用いて、これまで十分に体系化されてこなかったドメイン知識を、メディアレベルにおいてかなり自由な表現を取りながら、多くの人々に有用な体系的知識に仕上げるものである。筆者の研究室では、社会人経験者の学生が「産学連携活性化のためのホームページ構築」に挑戦した。文献調査、先行研究調査、インタビュー調査、ウェブ調査などの結果を操作可能な形で体系化した。
最後は、かなり私的な興味に基づいているという意味において、「パーソナルオントロジー」と呼びたい。あまり社会的有用性を意識せず、自分の興味や経験知や体験知をもとに自由に体系化するものであり、自分のための知識の体系化を第一義とする。最近、自分史の執筆が密かなブームになっており、支援ソフトも開発されているが、それもこの範疇に属するものである(沼田)(*36-2)。定年後に大学院に戻り、自分が獲得した暗黙的知識を自由に表現する中から、豊かな知恵に資するものが生まれ出てくるなどの可能性がある。生涯教育の時代に是非とも知識科学に取り入れたい分野である。
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