あいまいな知識を取り扱う
知識のあいまい性は、2つの種類の複雑性に起因している。ひとつは、考慮すべき要素数が非常に多い、あるいは強度に非線形(一次だけではなく、高次の項も含む数式)であるという対象自身の複雑性である。もうひとつは、個人の興味や経験に依存する認識の複雑性である。ファジィモデルは「ファジィ集合論」▼1に基づいて、このようなあいまいな知識を表現し操作する数学モデルである。代表的なファジィモデルは「条件部」と「結論部」とで構成される、いくつかのルールの集合からなる。ルールは知識の状況依存性に対処するためのものである。すなわち、対象や認識の複雑性を取り扱いやすい、いくつかの部分に分割して考察するためのものである。
条件部は状況が明確な境界をもたない場合を取り扱うために、「もし、温度がやや高ければ」などという表現となる。ここで、「温度がやや高い」というのは、何について語っているかによってもちろん異なるが、気温や風呂の温度の場合は「何度から何度まで」と明確に指定できない。このように境界があいまいな集合をファジィ集合という。ファジィ集合論においては、このような境界のあいまいな集合を「メンバシップ関数」▼2を導入して数学的な処理を行う。例えば「風呂の温度がやや高い」というファジィ集合は、★31-1上図のようなメンバシップ関数で記述される。もちろん、季節や天候あるいは人によってメンバシップ関数の形状は異なる。
ファジィモデルの結論部は、知識のあいまいな、あるいは多様な結論を表現するもので、風呂の温度の例で言えば「水を少し加える」などという意思決定や行動を表す。季節や人によって、あるいは風呂の大きさによってどのくらいの水を加えればよいかは異なる。このとき、例えば現在の気温と風呂の容積の関数として加える水の量を決定する数学モデルを結論部とすることも可能であるが、複雑すぎる場合は結論部もメンバシップ関数で与える。★31-1下図は後者の場合の例を示しているが、実際には意思決定がうまくいくように十分に調整する。
ルール集合に基づいて行動を決定するためには、ルールの条件部全体で可能な状況を網羅しておかなければならない。したがって前記の「もし、温度がやや高ければ」という条件部に加えて、「風呂の温度が非常に低い」「風呂の温度がやや低い」「風呂の温度が非常に高い」という条件部をもつルールを作成する。意思決定を行うときには実際の温度を条件部に入力して、そのときのメンバシップ関数の値をルールの確信度として、それに応じて結論部を採用する。採用の仕方はファジィ推論法▼3としていくつも提案されている。ファジィモデルは少ないルール集合により知識が表現でき、行動を決定することができることから、洗濯機の自動運転、クーラーの自動調節など、家電製品に利用されてブームになった。
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