情報を物理的実体として表現する
さまざまな規模の情報を、何らかの物理的実体を介して表現する。「情報デザイン」とは、こうした行為全体を指す。帰宅が遅くなる旨のメモを書く。駅へ行く経路を地図に描く。昨日のサッカー試合の様子を身振りで説明する。これらはすべて、右の定義に当てはまる。
しかし、これらだけではない。「情報デザイン」という概念の面白さは、この定義に当てはまる行為が、実に驚くべき広範さで、私たちの生活に深く浸透していることに気付かせるところにある。ウェブページを作る、電子メールで作文をするなどといったことは、単に最近追加された形態にすぎない。電子レンジや洗濯機など、身近の生活器具の表面に付ける使用法表示の設計。非常口表示や駅の案内板など、公的表示一般の設計。新聞や雑誌、電車内やビルの看板に表示する広告のデザイン。マニュアルやノンフィクション、旅行ガイドなどの「情報本」の制作。大小の博物館、博物展などでの展示。ビジネスプレゼンテーションや教室での授業。メッセージ性をもつ芸術作品の制作。ドキュメンタリー番組や映画の制作。研究や調査の目的での数値データの可視化。これらはすべて、先の意味での「情報デザイン」である。
つまり、これらの広範な活動や現象は、その外見や目的の違いにもかかわらず、「情報を物理的実体として表現する」という点で血縁関係にある。そして、このことは、私たちに次のような希望を抱かせる。(ア)こうしたケースのひとつで用いられている方法は、外見も目的も全く異なる別のケースに応用できるのではないか▼1。さらには、(イ)さまざまなケースに共通に応用できる方法論を、比較的少数の原理で体系化できるのではないか。同様に、(ウ)情報デザインを評価する基準や、品質の良しあしを説明する原理が体系化でき、さらには、(エ)生産されるさまざまな種類の表現をうまく利用し、コントロールする方法が、教養や技能の形で体系化できるかもしれない。
こうした体系化ができれば、私たちの生活や社会が受ける恩恵は計り知れない。まさに、「情報デザイン」という概念のカバーする領域の広さが、このことを保証している。実際、(ア)や(イ)のビジョンのもとに、すでにデザイナーたちの連携は始まっており(*25-1)、認知科学の領域での最近の外的表現への関心は(ウ)のビジョンに基づいている(*25-2)。さらに「情報リテラシー」と呼ばれる教育界のムーブメントは(エ)に基づいているように思われる(*25-3)。デザイン、科学、教育と、視点も目標も異なるが、こうした活動が対象にする現象の種類と範囲は、かなり正確に重なり合っているように思われる。
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