■福井栄一
■B6判変型/丸フランス装 176頁 定価 本体1800円+税
■2023年4月21日発売
邪を避ける桃、人をうむ竹、死者を引きとめる梅。草や花や木にまつわる、不思議で奇妙で滑稽な怪奇譚。竹取物語や古事記から、あまり知られていない説話まで45の短編が大集合。
●●●担当編集者より●●●
牧野富太郎が、朝ドラの主人公になるなどとは、まったく予想外のことだった。本書は、それにタイミングを合わせたというわけではないけれど、折良く世に出すことができた。「雑草という植物はない」とは、てっきり昭和天皇の言葉だと思い込んでいたが、実は雑誌編集記者時代の山本周五郎がうっかり使った「雑草」という言い方を、富太郎がたしなめたエピソードに由来するらしい。一つひとつの植物には、それぞれの物語があるのだ。ちなみに周五郎の小説にも、植物(本草)採集に勤しむ武士が何度か登場する。植物は、ほとんど動かない。動かないように見えるのは、せわしなく動き回る人間の勘違いであり、「人の一日は花の十年」という言葉があるように、花の命は短いし、ときに植物は動物よりも迅速なのだ。しかも無闇に動かないからこそ、その姿かたちは多様である。それでもやっぱり、一見じっとしている植物を物語の主人公にするのは難しそうである。福井栄一さんは、多くの古典の中から、そんな植物たちが活躍する奇譚の数々をていねいに採集して見せてくれた。春「らんまん」の緑の世界を、活字でもぜひお楽しみください。(米澤 敬)