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2023年2月9日号
 
 

1月の新刊

生きねばや
評伝 村越化石

■荒波 力
■四六判上製 360頁 定価 本体2900円+税
■2023年1月24日発売

「魂の俳人」と呼ばれた村越化石。15歳でハンセン病に罹患しながらも、俳句に精進し、ついには紫綬褒章を受章するまでに。高僧のように澄み切った境地に至り、優れた作品を残した彼の生涯をたどる。

●●●担当編集者より●●●
工作舎とハンセン病との出会いは、『ハンセン病 日本と世界』(2016)の編集制作にさかのぼる。制作にあたっては、国内のハンセン病療養所数か所を訪問した。米澤はスケジュールが合わず、村越化石がその半生を過ごした草津の栗生楽泉園を訪れることは叶わなかったが、この一連の取材で今も根深く残っている病と差別の問題に直面することになる。その後、インドとインドネシアのハンセン病コロニーにも足を運ぶ機会を得た。それらのコロニーは支援の手が入り、社会との接点もつくられていたこともあって、そこで暮らす子どもたちの好奇心にあふれる笑顔が印象に残っている。日本では患者たちは病が完治しても、長い間、子どもを持つことは禁じられていたので、国内のどの療養所も、設備は整っているもののどこか寂寞とした印象だったことと対照的だった。日本でも海外でも、ハンセン病はMDTという治療法が確立した現在でも差別の対象であり続け、実際はインドやインドネシアでも、コロニーによっては目を覆いたくなるほどの絶望的に状況に置かれている。事態は、新型コロナの流行によって覆い隠され、さらに深刻になっているともいう。
日本の療養所の大きな特徴は、文芸活動が盛んであることだ。子どもを持つことが叶わなかったことも、その一つの理由かもしれない。これまで訪れたどの療養所でも、文芸誌(同人誌)を発行していたし、図書室も充実していた。ある療養所の蔵書の中に戦前の東亜堂書房版『蜜蜂の生活』を見つけたときには、柄にもなく胸が熱くなった。同書のテーマは「生命の倫理」である。療養所で筆をとって一般文芸誌に作品を発表した文学者も少なくない。先ごろ逝去された加賀乙彦氏がまとめられた『ハンセン病文学全集』で、その水準の高さと多様さが実感できるはずだ。とりわけ小説の北條民雄、短歌の明石海人、そして俳句の村越化石への評価が高い。『ハンセン病 日本と世界』を編集した際には、この3人の作品に目を通し、心がヘトヘトになったことを覚えている。しかしいま、あらためて化石の俳句を読みなおしてみると、思いのほか諧謔に満ちていることに驚かされる。病を得、視力を失い、社会から隔絶されてなおのユーモアがあるのだ。ユーモアとはヒューマニズムでもある。そこに気づかせてくれたのは、ほかならぬ『生きねばや』の著者、荒波氏の力だった。  (米澤 敬)

 
 

近刊情報

キルヒャーの世界図鑑 新装版
よみがえる普遍の夢

■ジョスリン・ゴドウィン/川島昭夫=訳
■澁澤龍彦・中野美代子・荒俣宏=解説
■A5判変型上製 344頁 定価 本体3200円+税
■2023年3月下旬発売予定

キルヒャーの膨大な業績は、澁澤龍彦らに影響を与え、U・エーコに「全著作を所有するためならば全てを投げ打つ覚悟がある」とまで言われた。キルヒャーの奇怪な図像から、奔放な想像力の世界を再生したロングセラー。1986年の邦訳初版から、40年弱の時を経て図像を全面リマスター&20ページ増補!!

 

お知らせ

福井栄一『十二支外伝』書評

◆福井栄一『十二支外伝』が、2月4日 東京新聞にて文芸ジャーナリスト内藤麻里子さんに書評していただき大反響。「“猫を狂わせる術”や“鼠に咬まれたら、猫の涎を塗ると治る”など、真偽はともかく、ちょっと気を引く小話が盛りだくさん。酒席で披露したい気の利いたジョークっぽいものもある」

◆また、週刊読書人1月27日号でも紹介していただきました。「人魚は“雲雀笛のような静かな声”をしているらしい。想像すると、なぜか背筋がゾッとしてしまう」

 

kousakusha TOPICS

◆冒頭でもご紹介した『生きねばや』の村越化石はハンセン病を超えて評価された俳人。ハンセン病文学つながりになりますが、北條民雄『いのちの初夜』が、NHK「100分 de 名著」2月放送で中江有里さんが講師となって解説されます。ハンセン病文学に注目が集まりそうです。こちらもお読みください。

◆ メーテルリンクの『花の知恵』の増刷が2月15日にできます。5刷となるロングセラー。

『ライプニッツ著作集』第I期新装版 第8巻「前期哲学」の2刷が2月末にできます。昨年7月に増刷した第6巻・第7巻「弁神論」に続き、哲学系の動きが良いです。

◆ タイガー立石作品集『ムーン・トラックス』の3刷は、3月はじめにできます。

【編集後記】
●この冬は寒い!そのせいでもないのですが、2月は新刊がなく、増刷を3本進めました。春めく3月には期待の新刊『キルヒャーの世界図鑑 新装版』。4月には福井栄一さんの植物をテーマとした新作が待っています。そして、いくつかのフェアも準備中。次号でお知らせする予定なので、楽しみにお待ちください。 (岩下)