■荒波 力
■四六判上製 360頁 定価 本体2900円+税
■2023年1月24日発売
「魂の俳人」と呼ばれた村越化石。15歳でハンセン病に罹患しながらも、俳句に精進し、ついには紫綬褒章を受章するまでに。高僧のように澄み切った境地に至り、優れた作品を残した彼の生涯をたどる。
●●●担当編集者より●●●
工作舎とハンセン病との出会いは、『ハンセン病 日本と世界』(2016)の編集制作にさかのぼる。制作にあたっては、国内のハンセン病療養所数か所を訪問した。米澤はスケジュールが合わず、村越化石がその半生を過ごした草津の栗生楽泉園を訪れることは叶わなかったが、この一連の取材で今も根深く残っている病と差別の問題に直面することになる。その後、インドとインドネシアのハンセン病コロニーにも足を運ぶ機会を得た。それらのコロニーは支援の手が入り、社会との接点もつくられていたこともあって、そこで暮らす子どもたちの好奇心にあふれる笑顔が印象に残っている。日本では患者たちは病が完治しても、長い間、子どもを持つことは禁じられていたので、国内のどの療養所も、設備は整っているもののどこか寂寞とした印象だったことと対照的だった。日本でも海外でも、ハンセン病はMDTという治療法が確立した現在でも差別の対象であり続け、実際はインドやインドネシアでも、コロニーによっては目を覆いたくなるほどの絶望的に状況に置かれている。事態は、新型コロナの流行によって覆い隠され、さらに深刻になっているともいう。
日本の療養所の大きな特徴は、文芸活動が盛んであることだ。子どもを持つことが叶わなかったことも、その一つの理由かもしれない。これまで訪れたどの療養所でも、文芸誌(同人誌)を発行していたし、図書室も充実していた。ある療養所の蔵書の中に戦前の東亜堂書房版『蜜蜂の生活』を見つけたときには、柄にもなく胸が熱くなった。同書のテーマは「生命の倫理」である。療養所で筆をとって一般文芸誌に作品を発表した文学者も少なくない。先ごろ逝去された加賀乙彦氏がまとめられた『ハンセン病文学全集』で、その水準の高さと多様さが実感できるはずだ。とりわけ小説の北條民雄、短歌の明石海人、そして俳句の村越化石への評価が高い。『ハンセン病 日本と世界』を編集した際には、この3人の作品に目を通し、心がヘトヘトになったことを覚えている。しかしいま、あらためて化石の俳句を読みなおしてみると、思いのほか諧謔に満ちていることに驚かされる。病を得、視力を失い、社会から隔絶されてなおのユーモアがあるのだ。ユーモアとはヒューマニズムでもある。そこに気づかせてくれたのは、ほかならぬ『生きねばや』の著者、荒波氏の力だった。
(米澤 敬)